鳥取地方裁判所 昭和26年(行)40号 判決
原告 亀木正子
被告 鳥取県西伯郡境町
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、昭和十一年三月二十九日施行の境町営住宅罹災者貸与規程並に同規定にもとずいて為された原被告間の昭和十一年四月一日附町営住宅使用契約の無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、原告は肩書住居に住んでいる境町の住民であるが、もと境町本町七番地の宅地所有者松下道蔵が同所に建てゝいた同人の所有家屋を借りて商業に従事していたところ、昭和十年一月十二日の境町本町の大火災に罹つたので境町から別紙第一の境町罹災復興住宅資金貸付規程(以下資金貸付規程という)に従つて現在訴外権田良一所有の同町本町七番宅地三十六坪七合五勺を抵当に入れて原告名義をもつて千八百円を借受け、同所に別紙第三目録記載の家屋(以下本件家屋というを)建築した。ところが右資金貸付規程第九条には、「資金融通により建築せし建物は融通資金皆済迄は町において該建物に対し所有権の保存登記をなすものとする」との条項があつたが該条項は事実をまげて私有財産を公有財産とした点において憲法第二十九条において保障された国民の所有権を侵害し且又脱税の結果を招来するという点において公共の福祉に反するから当然無効であつて効力を発生しない。然るに被告は昭和十一年三月二十九日資金貸付規程を廃止して同規程第九条の趣旨を前提とし恰も境町の所有に属する住宅を原告に含む同町右罹災住民に貸与使用せしめるが如き内容の別紙第二の境町営住宅罹災者貸与規程(以下貸与規程という)を制定交付し、これにもとずいて昭和十一年四月一日この点において同旨の内容をもつた別紙第四の契約書を原告に差入れしめて、その内容の如き契約(以下貸借契約という)を結び、貸与規程と貸借契約とに基いて本件家屋に対して原告の費用をもつて被告のため所有権保存登記を完了し、非課税家屋として今日に至つている。よつて貸与規程並に貸借契約はいずれも右と同じ理由で憲法第二十九条に違反し且つ公共の福祉に反して無効であるからその無効確認を求めるため本訴請求に及ぶと述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中原告が境町の住民であつてもと境町本町七番地の宅地所有者松下道蔵が同所に建てゝいた同人所有の家屋を借りて商業に従事していたところ昭和十年一月十二日の境町本町の大火災に罹つたので、境町から資金貸付規程に従つて現在訴外権田良一所有の同町本町七番宅地三十六坪七合五勺を抵当に入れて原告名義で千八百円を借受け(但し実際の借主は右権田良一)本件家屋を建築したこと、被告が資金貸付規程にもとずいて貸与規程を制定し、之にしたがつて本件貸借契約を結んだこと、本件家屋に対して原告の費用をもつて被告のため所有権保存登記を完了したことは之を認めるが、その余の点はすべて否認する。
被告が本件貸付金の融通をなし罹災者が建築した住宅を町有名義となしたのは貸付資金担保のためにしたものであつて譲渡担保が有効であると同様有効なものである。又原告は本件家屋は私有物であるのに公有物と偽装し脱税しているというけれども貸与規程第七条第一項に「家屋に係る諸税」は住宅使用者の負担と定めてあり実際にも徴税しているから原告主張の如き違法はないとのべた。(立証省略)
三、理 由
原告が境町の住民であつてもと境町本町七番地の宅地所有者松下道蔵が同所に建てゝいた同人所有家屋を借りて商業に従事していたところ、昭和十年一月十二日の境町本町の大火災に罹つたので境町から資金貸付規程に従つて現在訴外権田良一所有の同町本町七番宅地三十六坪七合五勺を抵当に入れて原告名義で(真実の借主が訴外権田良一である点を除く)千八百円を借受けて同所に本件家屋を建築したこと、被告が昭和十一年三月二十九日資金貸付規程を承継した貸与規程を制定交付したこと、そしてそれに基いて本件貸借契約を結んだことについては争がない。
原告は資金貸付規程第九条の趣旨を前提として恰も境町の所有に属する住宅を同町罹災住民(原告を含む)に貸与し使用せしめるが如き貸与規程並に本件貸借契約はいずれも私有財産を公有財産とした点において
(1) 憲法第二十九条において保障された国民の所有権を侵害し
(2) 脱税の結果を招来する点において公共の福祉に反する
から当然無効であると述べ、
被告は(1)につき本件家屋を町名義としたゆえんは、資金貸付規程による貸金の担保のためにしたものであつて譲渡担保が有効であると同じ理由で有効である。
(2)については貸与規程第七条第一項には「家屋に係る諸税」は住宅使用者の負担と定めており実際にも徴税しているから違法でないと述べるからこの点について判断する。
〔(1)についての判断〕
一般に消費貸借として金銭の授受があり担保の目的のために目的物の移転があり、弁済によつて目的物を返還する契約はいわゆる譲渡担保と称される類型に属するものであつて幾多の判例によつてその社会的重要性と合理性とが認められ脱法行為でないことが明かにされたものである。
成立に争のない甲第三、乃至五号証、乙第一号証によると被告が資金貸付規程によつて原告に貸与した千八百円を、原告が使用料名義で償還しないときには住宅の使用許可を取消して之を返還させるけれどもその償還を終えたときには無償下付するとあつて右事実と証人権田良一同高橋賢の各証言とを綜合すると本件建物の所有権の移転は絶対的に所有権を被告が取得するというわけではなくいわゆる譲渡担保の例にならなつて右千八百円の貸付金を確実に回収するに必要なだけの範囲内においてのみ所有権を移転しその帰属関係は第三者に対する外部関係においては被告に移転するも当事者間の内部関係においては依然として原告の所有に止つているものと解すべきであるから原告名義で建築した本件建物を被告のため所有権の保存登記をしたことは有効であり又憲法第二十九条に保障された所有権を侵害することにはならないので、原告の右主張は理由がない。
〔(2)についての判断〕
原告提出の全証拠によるも、被告が本件建物に対し課税しなかつた事実は認め難く、却つて成立に争のない甲第三、四号証と証人権田良一同高橋賢の各証言とを綜合すると本件建物に係る諸税は役場の帳簿面に名代人として記載してある納税管理者たる訴外権田良一から徴税していた事実が認められるから爾余の事情について考慮する迄もなくこの点についても原告の右主張は理由がない。
以上のとおり原告の本訴請求はいづれも失当であるからこれを棄却すべく訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文の如く判決する。
(裁判官 和田邦康 石見勝四 石藤太郎)